この記事は、賃貸管理会社で入居者対応を担当している方、管理部門の責任者の方に向けて書いています。騒音、ゴミ出し、駐輪、上階の足音といった入居者からのクレーム電話は、設備トラブルと違って「直せば終わる」ものではなく、聞き取りの質と初動の言葉づかいで、その後の手間が何倍にも変わります。
結論から書きます。クレーム電話でAIが担うのは「聞き取り・記録・緊急度判定・受付番号の案内」までです。謝罪の範囲を判断すること、当事者に注意すること、補償の話をすることはAIにさせません。そのうえで、用件別に聞く項目を固定しておけば、担当者が折り返すときには必要な情報が揃った状態から始められます。LIFULL HOME'S Businessが説く「一次対応で炎上させない」原則、つまり相手の話を遮らないこと、事実と感情を分けて記録することとは矛盾せず、むしろその原則を毎回同じ品質で守るための設計です。
クレーム電話の一次対応で、いま何が起きているのか?
管理会社のクレーム電話がこじれる場面は、だいたい次の3つに集約されます。
- 担当者が不在で折り返しになる。物件担当が外出中で、事務の方が「担当から折り返します」とだけ伝える。入居者は用件を二度説明することになり、二度目の電話では最初より感情が高くなっています。
- 聞き取りが足りず二度手間になる。「上の階がうるさい」とだけ記録され、時間帯も頻度も分からない。担当者は事実確認のために掛け直し、そこでまた待たされたと受け取られます。
- 深夜に感情がこじれる。夜間は携帯転送で当番の担当者が出るか、留守番電話になるかのどちらかで、出れば寝起きの対応、出なければ翌朝まで放置です。騒音の苦情は夜に発生するので、この時間帯の受け方が満足度を左右します。
いえらぶCLOUDは管理会社の電話削減方法として、問い合わせの受け皿を電話以外に用意することを挙げていますが、クレームは「今すぐ誰かに聞いてほしい」性質が強く、チャットやフォームには移りにくい用件です。電話で受ける前提のまま、受け方の品質を揃える方が現実的です。
AIは一次受付で何をして、何をしないのか?
先に役割を線で引きます。ここが曖昧なまま導入すると、入居者にも担当者にも不信が残ります。
| AIがやること | AIがやらないこと |
|---|---|
| 自動応答であることを冒頭で伝え、話を遮らずに最後まで聞く | 謝罪の範囲を判断する(「ご不便をおかけしております」の謝意までに留める) |
| 物件名・号室・氏名・折り返し先を確認する | 当事者(音を出している部屋など)へ注意する |
| 用件別のテンプレに沿って事実を聞き取る | 補償・家賃の減額・契約の話をする |
| 緊急度を判定し、身の危険や設備の緊急は即時取次・案内する | 「相手が悪い」「あなたが正しい」と評価する |
| 受付番号を発行し、折り返しの目安時間を案内する | 過去の対応履歴をもとに独自の約束をする |
| 録音・全文テキスト・受付内容を通知先に送る | 管理会社の方針を超えた対応を提案する |
公開されている一次受付の実績としては、東急社宅マネジメントが社宅の一次受付で90%超の自動化と月800時間超の削減を公表しており(IVRy公式事例、2026年5月)、当社の導入先である宝宮設備でも受電の約9割をAIが完結しています。住まいに関する電話は用件が定型化しているため、聞き取りまでをAIに任せる設計は無理のない範囲です。詳しくは賃貸管理会社の電話対応をAIで自動化する方法で3系統に分けて整理しています。
用件別に、何を聞き取ればよいのか? 7種のテンプレ
折り返しの担当者が「これだけ分かっていれば動ける」項目を、用件別に固定します。項目が固定されていると、AIの聞き取りが安定するだけでなく、記録の粒度が担当者によって揺れなくなります。
| 用件 | 必ず聞く項目 | 人へ渡す条件 |
|---|---|---|
| 騒音(上階・隣室) | どの方向の部屋か/音の種類(足音・話し声・音楽・物音)/時間帯/いつから続いているか/頻度(毎晩か、単発か)/直接相手に伝えたことがあるか | 翌営業日に担当者が折り返し。繰り返し3回目以降は記録を添えて優先対応 |
| ゴミ出し | 集積所の場所/曜日と時間/分別か曜日違いか/出している人を特定できているか/写真があるか | 担当者が現地確認のうえ掲示・文書で注意 |
| 駐輪・駐車 | 場所(敷地内・共用通路・指定区画)/車両の特徴(色・種類・番号の一部)/繰り返しか初回か/通行や避難の妨げになっているか | 避難経路を塞ぐ場合は当日中に対応。それ以外は翌営業日 |
| 共用部の不具合 | 場所(廊下・階段・エントランス・ゴミ置き場)/症状/危険性(転倒・落下・破損)/いつ気づいたか | 危険性ありは即時取次。なしは受付記録のみ |
| ペット・臭い | 臭いの種類と発生源の見当/時間帯/継続期間/体調への影響の有無 | 翌営業日に担当者が事実確認 |
| 設備の不具合 | 水漏れ・鍵・給湯器・エアコンは別の線引き表で判定 | 夜間の設備トラブル受付の設計に沿って即時取次か翌営業日かを判定 |
| 身の危険を伴う近隣トラブル | 怒鳴り声・威嚇・暴力の有無/いま危険が続いているか | 110番と警察相談専用電話 #9110 を案内し、同時に緊急連絡先へ即時通知 |
聞き取りの順番も固定します。最初に「いま危険な状況か」を確認し、次に物件名・号室・氏名、その後に用件別の項目、最後に折り返し先と希望時間帯です。危険の確認を先に置くのは、長い聞き取りの途中で緊急案件を待たせないためです。
会話例:騒音の苦情はどう受けるのか?
騒音の受付を例に、実際の流れを示します。物件名や人名は架空です。
| 話者 | 発話 |
|---|---|
| AI | お電話ありがとうございます。○○管理の受付です。ただいまの時間は自動応答でご用件をお伺いし、担当者から折り返しご連絡いたします。まず、いま危険な状況ではございませんか。 |
| 入居者 | 危険ではないんですけど、上の階の足音がひどくて、もう毎晩なんです。 |
| AI | 毎晩続いているとのこと、ご不便をおかけしております。お伺いした内容は担当者へ確実にお伝えします。お住まいの物件名とお部屋番号をお願いいたします。 |
| 入居者 | メゾン○○の203です。 |
| AI | メゾン○○の203号室ですね。上の階の足音とのことですが、主に何時ごろに聞こえますか。 |
| 入居者 | 夜11時くらいから、深夜1時くらいまで。先週からずっとです。 |
| AI | 夜11時ごろから深夜1時ごろまで、先週から毎晩ですね。上の階の方に直接お伝えになったことはありますか。 |
| 入居者 | ないです。顔も知らないので。 |
| AI | 承知しました。受付番号は0918の12番です。担当者が翌営業日の午前中までに、いまお話しいただいた内容を確認したうえで折り返します。折り返し先はこの番号でよろしいでしょうか。 |
ここでの要点は3つです。「毎晩続いている」という相手の言葉を復唱して受け止めていること、謝意を「ご不便をおかけしております」の範囲に留めていること、受付番号と折り返しの目安時間で電話を閉じていることです。上階の住人について評価する言葉は一切使いません。
感情が高い相手には、どんな言葉で受け止めるのか?
怒っている相手に対してAIが使う定型の受け止め文言は、あらかじめ管理会社側で決めておきます。次の3つの型に収まります。
- 状況の受け止め。「毎晩続いているとのこと、ご負担が大きい状況だと承知しました。」事実を繰り返すことで、聞いていることを示します。
- 謝意の範囲。「ご不便をおかけしております。」ここまでです。「こちらの管理不行き届きで」のように非を認める表現は、事実確認前には使いません。
- 次の行動の約束。「担当者が内容を確認のうえ、翌営業日の午前中までに折り返します。」誰が、いつまでに、何をするかを具体的に言います。
相手が話し続けている間は遮らず、話が途切れたところで復唱に入ります。「落ち着いてください」のように相手の感情を指摘する言葉は、逆効果になるため使いません。
緊急度はどう判定し、どこから即時取次にするのか?
クレーム電話の中に、緊急案件が紛れ込みます。即時取次の条件は夜間の設備トラブル受付と同じ表を使い、次の3つを共通の即時条件にします。
- 身の危険。怒鳴り声や威嚇、暴力の気配がある近隣トラブルは、110番と警察相談専用電話 #9110 を案内し、同時に管理会社の緊急連絡先へ通知します。管理会社が仲裁に入る前に、安全の確保が先です。
- 火災・ガス。焦げ臭い、ガスの臭いがするという申告は、119番やガス会社の緊急連絡先を案内したうえで、即時取次します。
- 止まらない漏水。天井や壁から水が落ちている、階下に被害が出ている場合は、協力業者への手配が必要なので即時取次します。
それ以外のクレームは、緊急ではありませんが「放置されていない」ことを伝える必要があります。受付番号と折り返し時間の案内が、その役割を果たします。
記録と通知は、どこに何を残すのか?
クレーム対応で最後に効くのは記録です。聞き取った内容を次の形で残します。
| 残すもの | 内容 | 使い道 |
|---|---|---|
| 録音 | 通話全体の音声 | 「言った言わない」の確認 |
| 全文テキスト | 会話の書き起こし | 担当者が折り返し前に読む。聞き漏らしの確認 |
| 受付内容 | 用件・物件名・号室・氏名・発生日時・頻度・希望する対応・受付番号 | LINE WORKS・Slack・メールへ即時通知。管理システムへの転記 |
| 件数の集計 | 同じ部屋・同じ用件の受付回数 | 繰り返し案件の優先度付け、当事者への注意の根拠 |
通知先は用件で分けます。騒音やゴミは物件担当のグループへ、緊急は当番の携帯へ、というように振り分けておくと、深夜に鳴らなくてよい端末が鳴らなくなります。個人情報を含む記録の保管期間と閲覧範囲は、個人情報保護委員会の考え方に沿って社内規程で定めておきます。
担当者が折り返すときは、どう進めるのか?
AIの記録を受け取った担当者は、次の順番で進めます。
- 記録を読んでから電話する。受付内容と全文テキストを読み、入居者に同じ説明をさせない状態で折り返します。冒頭で「受付番号12番の件で、上の階の足音が夜11時ごろから続いているとのことでしたね」と要約すれば、相手は聞いてもらえていたと感じます。
- 事実確認をする。他の部屋からも同様の申告があるか、過去の受付履歴に同じ部屋が出ていないかを確認します。必要なら現地で時間帯を変えて確認します。
- 当事者への注意は文書で行う。口頭の注意は言った言わないになりやすく、感情的にもなりがちです。国土交通省が公表している賃貸住宅標準契約書の禁止事項や、物件の管理規約を根拠にし、最初は建物全体への掲示、次に該当する部屋への文書という段階を踏みます。
- 申告者へ経過を伝える。「掲示を行いました」「文書でお伝えしました」と経過を返すことで、放置されたという印象を防ぎます。この連絡もAIからの架電やSMSで定型化できます。
導入はどう進め、どこまでをAIに任せてはいけないのか?
導入の順番は、夜間・休日の一次受けから始めるのが現実的です。日中は担当者が出られる一方で、夜間は携帯転送か留守番電話しかなく、改善の幅が大きいためです。
- 直近3か月のクレーム受付を用件別に数える。騒音・ゴミ・駐輪・共用部・ペット・その他で分け、深夜に来ている比率を見ます。
- この記事のテンプレをもとに聞き取り項目を決める。物件ごとの特殊事情(ゴミ集積所の場所、駐輪場のルール)は補足として持たせます。
- 即時取次の条件と緊急連絡先を決める。設備トラブルの線引き表と同じ表に載せます。
- 受け止め文言と折り返しの目安時間を決める。「翌営業日の午前中まで」のように、守れる約束にします。
- デモで応対音声を聞き、本番へ移す。物件名の復唱や、怒っている相手への受け止めを実際の音声で確認します。
AIに任せてはいけない範囲は、最初に書いた通りです。謝罪の範囲の判断、当事者への注意、補償や契約の話、相手の言い分への評価。この4つを人の仕事として残すことが、クレーム対応の自動化で失敗しない条件です。
代表電話の受け方全体をどう変えるかは管理会社の電話が減らない理由と減らす方法に、有人代行との費用の違いは賃貸管理の電話代行とAI電話の費用比較にまとめています。この記事のテンプレは、賃貸管理AIコールセンターくんの用件別対応表と同じ考え方で作っています。
よくある質問
クレームの電話をAIが受けると、入居者は余計に怒りませんか?
怒りが増すのは「たらい回し」と「同じ話を何度もさせられること」で、相手が人かAIかではありません。AIが聞き取った内容は録音と全文テキストで残り、折り返す担当者はそれを読んでから電話をかけるため、入居者は二度目の説明をせずに済みます。冒頭で「自動応答で用件をお伺いし、担当者から折り返します」と正直に伝え、話を遮らずに最後まで聞き、受付番号と折り返しの目安を案内する設計であれば、深夜に担当者の携帯へつながらないまま待たされるより不満は小さくなります。私たちの導入先でも、入居者からの受電の大半をAIが一次受けしています。
騒音の電話で、AIは相手の部屋に注意してくれますか?
しません。当事者への注意は管理会社の判断と責任で行う業務で、AIの役割は聞き取りと記録までです。AIは「どの部屋から、どの時間帯に、どんな音が、いつから、どのくらいの頻度で」を聞き取り、受付番号を発行し、翌営業日に担当者から折り返す旨を案内します。担当者はその記録をもとに事実確認を行い、必要なら管理規約や賃貸住宅標準契約書の禁止事項を根拠に、当事者へ文書で注意します。AIに注意や謝罪の判断まで持たせると、事実確認の前に管理会社が非を認めた形になり、トラブルが大きくなります。AIが持つのは、担当者が事実確認に入れるだけの情報を揃える役割です。
深夜に「隣の部屋で怒鳴り声がして怖い」と言われたらどうなりますか?
身の危険を感じる状況は管理会社の受付ではなく警察への相談が先です。AIは「身の危険を感じる場合は110番、急ぎでない相談は警察相談専用電話の#9110へ」と案内したうえで、管理会社としても内容を記録し、緊急連絡先の担当者へ即時に通知します。火災やガスの臭い、水が止まらない漏水も同様に、案内と即時取次を同時に行います。どの症状を即時取次にするかは、夜間の設備トラブル受付と同じ線引き表を使い、管理規程から起こしておきます。案内する連絡先は物件ごとに登録し、応対の中で読み上げます。夜間の当番が誰かはAI側で切り替えられます。
聞き取った内容はどこに残りますか?管理システムに入力し直す必要はありますか?
通話は録音と全文テキストで残り、用件・物件名・号室・氏名・発生日時・希望する対応をまとめた受付内容がLINE WORKS・Slack・メールなど指定の通知先に届きます。管理システムへの転記は、CSVでの取り込みや連携で対応でき、手入力を前提にしない運用が組めます。記録が残ることで「言った言わない」の確認ができ、同じ部屋から繰り返し来る苦情を件数で把握できるため、当事者への注意や契約更新時の判断の材料にもなります。保管期間と閲覧できる担当者の範囲は社内規程で決めておきます。録音の告知は応対の冒頭で行います。
有人の電話代行と何が違いますか?
有人代行は聞き取りの柔軟さがある一方、担当者ごとに聞く項目や記録の粒度が揺れ、繁忙時間帯は待たせることがあります。AIは用件別に聞く項目が固定され、同時に何件でも受けられ、深夜も同じ品質で応対します。費用は件数が増えても単価が上がりにくい構造です。逆に、謝罪の範囲を状況で判断する、当事者へ注意する、補償の話をするといった判断はどちらにも任せず、管理会社の担当者が行う前提で設計します。費用の比較は、有人代行・携帯転送・留守番電話・AI電話を1コール単価で並べた別記事にまとめています。管理戸数が増えたときに費用がどう伸びるかも、そこで比較できます。
いまの代表番号のまま導入できますか?導入までに何を準備しますか?
代表番号はそのままで、営業時間外だけ、あるいは担当者が出られなかった場合だけAIに回す設定ができます。準備するのは、用件別の聞き取り項目(この記事のテンプレをそのまま使えます)、即時取次する条件と緊急連絡先、通知先、折り返しの目安時間の4点です。応対フローを作ったら、デモで実際の応対音声を聞き、物件名や号室の復唱の仕方を確認してから本番に移します。夜間・休日の一次受けから始めて、日中の定型用件へ広げる進め方が、現行業務への影響が小さく効果も見えやすい順番です。最短では数日で本番の受付を始められます。
この記事は反響AIコールくん運営チーム(株式会社Rabona AI)が、公開されている一次ソースと当社導入事例をもとに作成し、音声AIの開発・運用実務の観点から監修しています。更新履歴: 2026-09-18 初版公開。
クレーム電話の一次受けを、AIに任せる
賃貸管理AIコールセンターくんは、騒音・ゴミ・駐輪などのクレーム電話を用件別に聞き取り、記録と通知まで24時間AIが行い、緊急のみ担当者へ取次ぎます。応対音声はデモでお聞きいただけます。